最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)410号 判決
上告人
マルチ産業株式会社
右代表者
須田五郎
右訴訟代理人
山根晃
被上告人
中川謙輔
被上告人
小島明
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山根晃の上告理由について
商法が株主総会決議取消の訴と同無効確認の訴とを区別して規定しているのは、右決議の取消原因とされる手続上の瑕疵がその無効原因とされる内容上の瑕疵に比してその程度が比較的軽い点に着目し、会社関係における法的安定要請の見地からこれを主張しうる原告適格を限定するとともに出訴期間を制限したことによるものであつて、もともと、株主総会決議の取消原因と無効原因とでは、その決議の効力を否定すべき原因となる点においてその間に差異があるためではない。このような法の趣旨に照らすと、株主総会決議の無効確認を求める訴において決議無効原因として主張された瑕疵が決議取消原因に該当しており、しかも、決議取消訴訟の原告適格、出訴期間等の要件をみたしているときは、たとえ決議取消の主張が出訴期間経過後にされたとしても、なお決議無効確認訴訟提起時から提起されていたものと同様に扱うのを相当とし、本件取消訴訟は出訴期間遵守の点において欠けるところはない。これと同旨に帰する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(塚本重頼 大塚喜一郎 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶)
上告代理人山根晃の上告理由
第一、本件訴訟の経過
一、上告会社は、昭和五〇年五月三〇日に第三回定時株主総会を開催し第三期営業報告書、貸借対照表及び損益計算書承認の決議を行つた。
これに対して、被上告人等は昭和五〇年八月二〇日に右決議に関して、決議無効確認の訴を提起した。
二、右訴訟の係属中に昭和五二年五月二四日に予備的請求として、決議取消の申立をなした。
三、第一審判決は、
主位的請求である決議無効確認の訴については、請求棄却、予備的請求である決議取消の訴については、出訴期間経過後であるとして、訴却下の判決を下した。
四、原審は、
主位的請求である、決議無効確認の訴については、被上告人等の主張事由は決議無効の事由なりえずとして、主位的請求は理由がないとして、この点に関しては控訴を棄却した。
しかし、決議取消を求める予備的請求については、出訴期間は徒過していないとして第一審判決を取消し、第一審の横浜地方裁判所に差戻す旨の判決を下したのである。
第二、原判決の法令違背
一、原判決の判断は商法第二四八条第一項に違反するものである。
商法二四八条は、決議取消の訴は決議の日より三ケ月以内に提起すべきことを明確に定めている。
ところが、本件においては、当初提起されたのは、決議無効確認の訴であり、決議取消の予備的申立は決議の日から約二年経過した昭和五二年五月二四日である。
これが、出訴期間経過後になされたものであることはあきらかである。
したがつて、不適法として却下するのは当然である。
しかるに、原判決は、これを適法なりと判断した。
右判断は商法二四八条に違反するものである。
二、原判決は「決議取消の原因となる瑕疵を理由に決議の効力を否定しようとする訴訟を出訴期間内に提起している場合にはそれが決議無効確認の訴として、提起されていても、当該瑕疵を理由とする決議取消請求を予備的に含むものと解するのが相当である」と判断している。
その根拠として、一つには決議取消の原因となりうる瑕疵を理由に決議の効力を否定しようとする訴旨が明確に窺知される以上かく解しても出訴期間を定めた法意に反することないとしている。
二には、訴訟形態が異なることを理由にかかる場合に遮断効が生ずることを認めることは瑕疵の法的評価の責任を挙げて提訴者の負担とするもので、失当たるを免れない」とするものである。
三、決議無効の確認の訴と決議取消の訴は決議の効力を否定する点では同一の目的をもつものである。
しかしながら、商法二五二条に定められた決議無効の確認の訴は決議の内容が法令定款に反するという内容上の瑕疵を事由に決議無効確認を求めるものであり商法第二四七条以下に定められた決議取消の訴は総会招集の手続または決議の方法が法令定款に反する場合に三ケ月以内に限り取消を求める訴訟の制度である。
したがつて、決議効力否定宣言を求める点で同じ目的をもつていても、別個の訴訟形態をとる。
決議無効確認の訴と決議取消の訴は訴訟物を異にするものである。
本件において被上告人等は当初計算書類について、監査役の監査を経ていない旨の主張事由を無効原因であるとして、明確に決議無効の訴を提起したのである、被上告人等は、決議無効確認を求めたのであつて、決議取消請求はそこには含まれていない。
原判決の如く、決議無効確認の訴の訴訟が提起されている場合にも別個の訴訟上の請求である決議取消請求が常に予備的に申立てられていると解するのは訴訟係属関係を極めて不明確にする。
(一) すなわち、裁判所においては、決議無効確認訴訟において無効事由の存否の審理のみならず取消事由の存否について、審理をしなければならなくなる。
(二) さらには、本件の如く審理中に予備的請求について、いわゆる決議取消請求が「明示」されない場合においても、決議無効確認訴訟事件については、その包含されている予備的請求である決議取消の訴について、請求を認容するか棄却するかを判決をしなければ民事訴訟法第一八六条に違反することとなる。
これは極めて不合理なことと断言せざるを得ない。
四、商法二八四条は「決議取消の訴」は三ケ月以内に提訴しなければならないとするのである。
右条文は、明確に「決議取消の訴」という訴が三ケ月以内に提起されることを要請しているものである。
「決議取消の原因となりうる瑕疵を理由に決議の効力を否定しようとする訴旨」をもつた訴訟(極めて漠然とした規定の仕方である)が三ケ月以内に提起されればよいとはしていないのである。
裁判所に対していかなる事項について審判を求めるかは、提訴者の責務において決定すべきである。
その訴訟上の請求は、請求の趣旨と原因によつて、明確にされなければならない。
本件においては、当初の訴提起は決議無効確認訴訟であり、審理開始後約二年も経過してから右請求には、決議取消の請求も包含されていたのだ」とする被上告人の主張は極めて身勝手なるものといわざるを得ない。
五、原判決は、決議無効確認の訴に予備的に決議取消の訴が含まれていると考えないと「瑕疵の法的評価の責任を挙げて提訴者の負担とするもの」となり「失当たるを免れない」という。
しかし、提訴者は総会についての一定の瑕疵について決議無効確認訴訟を提起する場合同時に同一事由を根拠として予備的に当初からこれを明示して決議取消請求の申立てることが可能なのである。
このような法的手段が許容されているにも拘らず提訴権者があえて、決議無効確認訴訟に限定して訴を提起した場合には、裁判所は決議取消の事由が存するか否か顧慮することなく無効事由の存否のみ判断すれば足るものと思料する。
六、結語
以上のとおり原判決は商法二四八条一項の解釈を誤り右条項に違反するものである。
原判決の予備的請求へ関する部分を取消されたい。